黒田倫弘「WEAVER STANCE」
4月26日アルバム「WEAVER STANCE」リリース!


音楽ライター・斉藤ユカさんより


「Thank you Baby」の間奏を聴いていて、なんて色気のある旋律だろうと思った刹那、AORという言葉がふと浮かんだ。音楽用語として使われるAORにはいくつかの意味があるとされていて、ひとつはよく知られているアダルト・オリエンテッド・ロック(おとな向けの音楽)、それからオーディオ・オリエンテッド・ロック(音づくりにこだわった音楽)、そしてアルバム・オリエンテッド・ロック(チャートを意識せずに制作された音楽)というのが概ね一般的なところ。今ここで、なんだ全部クロダのことじゃないか。と、思った方は、いやはや、かなりのクロダ通じゃないか。
 だいたい、肩の力が抜けているのにハイクオリティであるということだけでも、今作「WEAVER STANCE」をAORとする理由になる気がしている。好きなことを好きなようにやって、土壇場のヒラメキを信じて、楽しく突き詰めた結果がこの最新の10曲だ。収録曲それぞれの潔いほどに他方向に散らばったベクトルは、もはやクロダの専売特許みたいなものだが、コンセプトだとか、時代の流れみたいなものも一向に気にせず、1曲1曲に対して持ちうる技と経験値を躊躇なく注ぎ込むのだから、そこに質が伴わないはずもない。例によって"なんでもやりたい"という説得力に満ち満ちた、カラフルな作品がそりゃあ出来上がるに決まっている。
 もとより黒田倫弘はミュージシャンとしてあんまり器用なタイプじゃあない。私が知る限り、たぶん一般的な男子の平均を超えるようなロマンチストでもない。だからその音楽には、壮大な夢や希望が描かれたことはないし、洒脱なテーマが掲げられたこともない。クロダのバンドのライブの歴史から生まれ出たような「REASON MONSTER」にしろ、真骨頂である「ラブレター」みたいなロッカバラードにしろ、そこには必ずその時々のクロダがいて、切れば血が滲むようなリアリティが横たわる。それが時間とともに熟したり、枯れて朽ちたり、新生したりを繰り返しながら、唯一無二の音楽性が今日も少しずつ紡がれていくのだ。つまり、生きていることそのものがクロダの伸びしろに他ならず、今作は実にその証明でもあるだろう。音楽的に完成されていながら、未完成ならではの勢いも感じさせるという、なんとも面白い作品になった。
 タイトルもまさに言い得て妙だ。"ウィーバースタンス"をネット検索にかければ、もれなく"時代遅れ"という補足がされるくらい、今では廃れたピストルの構え方なのだという。それでもいいじゃないかという、ある意味では開き直りにも思えるタイトル。クロダはクロダ以上にも以下にもなれないし、だから自分を大きく見せたり、逆に卑下する必要もない。それは本人が誰よりいちばんよく知っている。時に古くさいと言われるウィーバースタンスも、ゆえにクロダの揺るぎなきプライドなのだ。
 それに、構え方なんて実のところどうだっていい。誰かの心を射抜く力があるのであれば、それがクロダの音楽にとってもっとも正しいスタンスなのだから。