黒田倫弘「Wonder Drive」
12月4日アルバム「Wonder Drive」リリース!


音楽ライター・斉藤ユカさんより


なんでアメフトやねーん!!
と、まずツッコむのが礼儀だとしても。
しかも66やなくて99やないかーい!!
と、さらにかぶせることを忘れないとしても。

私はこのアルバムを聴きながら泣き笑いしてしまう。
なんだろう、ものすごくこう、嬉しい。
クロダが確かに、厚い雲を突き抜けたのだなと感じるから、嬉しい。

思えばクロダは『ALWAYS』で自ら大人になって、『VANILLA SKY』で立ち止まりゆっくり考えて、『Grampy Diamonds』で開き直った。要するに、ソロヴォーカリストとしてはおそらく最大の過渡期であろう30代後半から40代にかけての揺らぎを、そのまま音に刻んできた。
そして今作。
前作という布石があったからこそ出来た1枚であることは間違いないのだけれど、単なる開き直りだけでは、ここまで胸のすくような仕上がりにはならなかっただろう。

クロダは、本当の意味で今の自分を受け入れたのだと思う。
年を重ねていく自分のことよりも、むしろ"変われない自分"のほうを。
埃臭いアコースティックギターと無骨なスキャットで始まる『原点回帰のシューティングスター』は、まさしくクロダ自身のことだ。流れ星のようにカッコよく燃え尽きたいと思いながらも、やっぱり往生際が悪くて右往左往。よっしゃ、だったらやり直し!と、"変われない自分"に加担しはじめた。
言い訳はただひとつ。
だって、しょうがないじゃん!!
実にふざけたアメフト衣装のMVは、だから私にはクロダの所信表明のようにも思えるのだ。
(だって、しょうがないじゃん。こういうバカなの好きなんだもん。でも、徹底的にやればカッコよく見えるってことを、俺は経験上知ってるよ。)

『CANDY DAYS』には胸がきゅんとする。『Rainbow Lovers』のゆるやかな抜け感が好きだ。『HEAVEN』の重さに時々こころが支配されてしまう。例によって、収録曲それぞれが多方向にベクトルを向けたアルバムでありながら、全編を通して聴けば、印象としてはなぜか実に軽やか。
まさしくワンダードライヴな気分にさせてくれる1枚だ。
思うに、"変われない自分"を肯定したことで、それぞれの作品にクロダの"蒼さ"がてらいなく加味された。それに誘発されたのかどうか、ベテランプレイヤー揃いであるはずのバンドメンバーの"蒼さ"もまた、ここぞとばかりに発揮されている。
だから、今作はやたら完成度が高くて自信に満ちているくせに、なんだか瑞々しいのだ。それはもちろん、若造が背伸びしたって得られるものではなく、真剣にやんちゃできる大人にのみ与えられるもの……なんだよ、それってめちゃくちゃカッコいいじゃん!!

ここ数年の過渡期の中でもがきながら、クロダはやっとジャストサイズを手に入れたのかもしれない。そのくらい今作『Wonder Drive』は、今の黒田倫弘に似合っている。それはもう、文句ひとつ言えないほど、完璧に。